丹沢の水力発電所を探る 7 玄倉第二発電所 改良工事・靑崩隧道見取り図

丹沢の水力発電所を探る 3玄倉第二発電所も参照してください

さてさて、1月に工事中の玄倉第二発電所を探索してきたが、工事は年度末の3月で終了とのこと。工事終了後の現場確認をすることにした。日時は、尊仏祭が行われる511大倉から登り、塔ノ岳で尊仏祭に参加、尊仏岩跡を参拝して玄倉に降りる長丁場(林道歩き)である。

1月に見た立てた推測が合っているかの確認も兼ねる。尊仏祭は別項で、改めて原稿を書き起こすことにして、まずは、塔の岳山頂を後にして尊仏の土平に向けて下山開始。祭礼が終わるのが遅く13時過ぎになってしまった。途中玄倉第二発電所の完成を拝んで1730分の玄倉発のバスに乗るためには急がねばならない。

不動の水場の下から大金沢と小金沢を隔てる尾根(昔の登路)を下降。この尾根の下降は踏路が、ふかふかして歩きやすいが最後の河原歩きが苦痛になる。途中の石の標識を見て順調に下降した。
右 ユーシン 左 塔ノ岳 (裏には同好会の文字)
 新編相模風土記稿には、その昔金沢といわれるこの周辺に金山があり、数百人の人々が活動していたとのことであるが、今はその面影も無い。大金沢、小金沢を遡行した人のWeb記録を読んでも鉱山があったような記述も無い。焼けの兆候があれば、その周辺を探せば良いのだが、大金沢、小金沢の出合いには見渡らず、さらに下ると箒杉沢との合流点の箒沢左岸に焼けの兆候があったが、時間が無いので、パス。大きな川原を左右に探しながら、尊仏の土平から林道に入った。途中 以前見つけたオガラ沢の出合いの焼けの兆候を確認。まもなく熊木ダムに到着。湛水された湖面を観察。
 
熊木ダム 湛水状態
1号導水路からは水が流れており、水路が補修されたことを確認。1号導水路は、まだまだ現役であった。
1号導水路より導水中
 
途中鉄砲沢導水路の取水口を確認したかったが、時間が無い。パスして玄倉第二発電所に向かう。発電所の設備は完成されており、発電所の橋を渡り始めたら、ちょうど発電機の始動にぶっかったようでモーター音が響いてきた。(15時くらい)発電所内には立ち入ることができないので金網越しに内部を観察。

予想 GIS化された変電設備
⇒予想通りの構成 C-GIS化されていた。Cはキュービクルを示す。構造も予想した3本角形であった。
 
C-GIS化された送電設備
明電舎のWebで確認すると絶縁ガスSF6のガス使用量を低減化し真空遮断器の採用と、絶縁ガスの低圧力化で環境に配慮された機器構成であった。盤面の構成図をみるとアレスター(避雷器)も組み込まれているようである。
透明ガラス版の奥に機器の構成図と操作ノブが見える
碍管はポリマー碍管化されていた(予想では陶磁器の碍管)
6.6kVから66kVに昇圧するトランス部分もガス絶縁になっており太いパイプ(三相一括母線)で次の送出機器に繋がる。この内部には遮断器とアレスター・変成器(CT・VT)がコンパクトに収納されている。
碍管(電線の引出し口)の部分が軽量化された、ポリマー碍管になっている。どうしても陶磁器の碍管は、大きく重たくなるので機器の重心が上方に移動し、地震の際の固有振動による共振により破損も発生する確率が高くなるが、ポリマー碍管ならばFRPの管と樹脂が充填されているので、可撓性もあり耐震性も向上する。

環境に配慮した鉄塔 ⇒ × はずれ 
 
移設前の鉄塔 場所が移動しただけ
どうやら既存の鉄塔の基礎をやり直して移設したようだ。環境配慮型の円筒形の鉄塔を想像していたが移設で終わったようだ。鉄塔の部材一つ一つに番号が振られており、分解組み立てが行われたようである。
再塗装され移設された鉄塔
 
全体の構成 だいぶんコンパクトになっている
元の設備機器の1/3くらいの場所に収まるコンパクト設計
以前の機器構成を神奈川県の玄倉第二発電所のWebで見ると単相トランスが3機並んでいるようであり、その組合せで3相を作り出していたようである。誘導型発電機は、系統への接続時に突入電流が流れるため昭和30年代の設備では大掛かりになっただろう。
発電機は最大出力で運転中 ちょうど夕方の電力使用時間帯に当たる

 
靑崩隧道 追記
色々調査していくと、その過程で靑崩隧道の工事記録を見つけたのでUpする。旧靑崩隧道は、その隧道上部の岩体にクラックが入り、隧道と靑崩岩体側壁との距離も短いため、隧道上部から側面全体が崩落する虞があった。発電所の点検道路の役目もあるため調査を含め3年の月日をかけて新しく掘られた。貫通後の隧道の整備中も最小限の通行中断期間を設けて工程は組まれていた。新隧道は靑崩岩体側壁から離れた、内側の安定な岩盤を掘りぬいているが、工事の際の発破の振動で、旧隧道側が崩落する虞もあり、最新の注意を払って工事が行われていた。

それは、旧隧道内に振動及び変位を測定する機器を設置して発破を行い、旧隧道への影響を測定しながら行われている。特に旧隧道との接合部分では岩体にロックボルトの打ち込みや補強剤を注入して強化を図り、発破を使わず機械掘りで行われており無事貫通させている。旧隧道は入口から明り取りの窓のある区間に掛けて、崩落防止用の鉄鋼と金網を引き裂いて上部が崩落しており今後もどんどん崩落が進むであろう。旧隧道は侵入できないように厳重に管理されており、忍び返しや有刺鉄線で守られている。ここに資料から抜き出した両隧道の見取り図を挙げる。
クリックすると拡大します 旧靑崩隧道と新靑崩隧道の見取り図と課題(相対図) 資料より引用
以下資料より引用
工事名 :平成21年度玄倉林道改良工事(2号隧道新設)
発注者 :神奈川県足柄上地域県政総合センター
工 期  :平成21年9月15日~平成23年9月30日
諸 元  :トンネル延長 L=324.0m 新設延長L=272.2m・補強延長 L=51.8m
 
施工における課題
(1)坑口部における林道の斜面保護と管理用(発電所)車両の安全確保
(2)既設トンネル(素掘部)への発破振動の影響対策
(3)既設トンネル(覆工部)への分岐・合流部の施工と周辺地山の補強
(4)坑口部の施工ヤード確保およびトンネルの合理的施工
 引用終わり

このように新靑崩隧道の貫通においては、最新の技術をもって行われており、今後も安心して通行できる。この見取り図から新靑崩隧道には2箇所の車両すれ違い箇所が設けられていることが判る。さて旧靑崩隧道であるが、ハンスシュトルテ著 続丹沢夜話の丹沢のトンネルの項では、設計ミスで内部がすれ違いの屈曲した形になったとの話があるが、この見取り図から察すると、若干の補正はあったが大きな設計ミスはないものと考える。どうしても地形の関係から直線で掘り進むことができず、屈曲部ができるのはしょうがないと思われる。旧隧道付近には、コウモリの営巣が見られるようであり、今後はコウモリが生息する場所になっていくと思われる。
 
 
参考資料
既設トンネルへの発破振動などを考慮した小断面トンネルの施工
-県営玄倉林道2号隧道付替 新靑崩隧道-
 山中 桂司,本庄 清二,須藤 敦史 他        
日本トンネル技術協会 掲載誌 施工体験発表会 68 2011-10-13 p.9-16

 

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