丹沢の水力発電所を探る 2 玄倉第一発電所


玄倉第一発電所

 
使用水量 最大23/s 常時0.743/s 常時尖頭 23/s 
有効落差 最大258.20m 常時261.70m 常時尖頭 258.20m
出力  最大4,200kW 常時880kW 常時尖頭 4,200kW
 

   44年前のネガフィルムが見つかったので比較のため示す。
                        44年前の看板

 
現在の看板
 
44年前の発電所の変電設備
 
現在の発電所の変電設備
 
             発電所に荷物を運ぶインクライン
(光線式警報機があるので入らないように)
 

概略

 

工事着手        昭和32219日                   
トンネル全線貫通    昭和3323日                 
調整池仮湛水開始    昭和33325日            
発電機据付完了     昭和33415日            
通水発電機乾燥運転開始   昭和33420日       
工事竣工        昭和33430          
官庁検査終了               昭和33515日       
工事着手から1年と約3ヶ月で全てが終わっている。     
総工費概算462百万円 
1回の入札では入札ができず再三再四の入札を繰返した。また工事の最中に落石による事故で2名の殉職者が出ている。

玄倉第一発電所の直上には、玄倉ダムから送られてきた導水トンネルの出口があり、水槽が備えられている。
 
 
水槽の標高は584.4m。水槽出口は、水圧鉄管が繋がっておりゲートで、発電機の水車に流入する、水量を調節している。
 
 
第一発電所の運転停止時や、運転調節時、急激な発電機の制御のため、水槽の脇にゲートがあり、それを開閉することでも水量を調節している。玄倉第一発電所脇の橋が架かっている沢は、この水槽からの余剰水が流れる水路の役割をしている。
左側に余剰水を流す水路がある
 
 また同時に玄倉ダム(取水口標高585m)の取水堰でも調節しているが、ここで調節するとタイムラグが発生し、こまめな調節が出来ないので大まかな調整だろう。同様な水槽は、玄倉第二発電所にもあり、時々放水するが、それが玄倉ダムのダム湖に注ぐ滝となって出現する。これがいわゆる幻の滝である。
 玄倉ダムおよび熊木ダムはフルオープン式のゲート型ダムであり時々フルオープンにしてダム湖に溜まった岩石を下流に放出している。
 玄倉水難事故の時にダムの放水を止めて救出できないかが検討されたが、集中豪雨のため構造的に止めることはできなかった。溢流水(ダムを越えて流れる)によるダム本体の損傷も考えられ、ダム損傷の場合は鉄砲水が発生し被害がさらに大きくなる可能性があった。導水トンネルへの送水量も限界があり、増やしてもユーシンの水路橋や管路入口に設けられた溢流堰を越えてしまい無理があった。

ダム諸元

 
現在のダム諸元(昔の資料と少し違う)

 


構造 形式溢流重力式間知石積 基礎地盤 花崗岩     
提高14.8m 提長 30.50m                       
水門門扉 高さ8m 幅12m 1門  高さ2.5m 幅2m 2門                
取水口構造 上流部 幅5m 長さ10.2m 下流部長さ6.65
芥除格子幅5m 長さ7.79m                      
制水門 1.6×2m(ローラーゲート)                
水門上部高度593m(満水標高) 有効水深6m        
湛水面積11,100㎡ 総貯水量 52,0933

 
 

 玄倉ダムから玄倉第一発電所までの水路は無圧式の水路であり調圧槽が無い。無圧式なので導水トンネル上部に空間が空いている。
玄倉ダム操作規 定資料-120 リンク直し

水路構成


 取水口(標高585m)から取り入れた発電用水は制水門を経て射流状態で流入し水に跳水現象(ヒョゥングルこと)を起こさせて砂と水を分離し導水トンネルに導く。沈砂池に堆積した土砂は排砂口から随時玄倉川に吐き出させる。
跳水現象中
 制水門を閉じた状態

沈砂池

3.4m 長さ15m 最高水位2.6m               
芥除格子幅1.6m 高さ2.3


導水トンネル 延長3281.422m                  
形状 側壁垂直拱型 無圧トンネル               
断面積 幅1.6m高さ1.6mの馬蹄形型

玄倉ダムの水門を閉じた状態の水門上の標高は、593m、取水口の標高は585m、上部水槽は584mであり設計上の勾配は1/1,500である。ほとんど水平状態である。
車中心の標高は322.5mである。
 
クリックすると拡大します。
 
 途中取水口から約1km地点に横坑があり監査孔として利用されている。これを含めて横坑は125m、229m、339m、449mがある。監査孔としての横坑の長さは27.6mであり2号横坑が該当するものと思われる。
 資料上に文字での記載はあるが地図に記載は無く、監査孔の位置は確認できない。今回この監査孔の位置を探り当てたので報告する。導水トンネルは取水口から約1,270mの地点で破砕帯にぶつかり、黒部ダムとは規模も違うが横坑を掘り、水抜きを行ったそうである。また工事終了後には、この横坑からの湧水も導水トンネルに引き入れて使用水量の増加を行っている。

監査孔


ダムから約1km地点の横坑。落葉や泥が積み重なって開口部があるとは思えなかったが、恐る恐る足で踏んでみると空洞のような音がする。
 
 30cmくらいの泥を除くと鉄の蓋が出現。周りの泥を取り出し全面を露出させて手を掛けると開く。


内部を覗くと、導水トンネルとは直角に交わっているため、盲腸のような状態で細かい泥が60cmくらいに積み重なっている。泥は、奥に向かって斜面が低くなっていく。表面をみると波が立ったような文様がみられるので導水トンネルの水流がある場合は、浸水していることが窺える。天井部から40cmには、水に浸かっていた線がみえる。

今回は取水を停止していたので内部を伺い知ることができた。カメラを望遠して内部に差し入れ何度か失敗しながら写すと、奥に玄倉第一発電所への導水トンネルがあり、上部に制御線の太いケーブルが見える。
そしてそこには、チョークで書かれた1,040の数字が見える。まさしく約1Kmの地点である。
  
 山の斜面にある監査孔(こっちだよと呼ぶ声に釣られた)

 

アッチ沢導水路


この導水トンネルに引きこまれる発電用水は、途中アッチ沢取水口からの水が加わる。計画では流入水量が23/s以下の場合はアッチ沢からの取水を行ったそうであるが、現在のアッチ沢の取水口は土砂で埋まっている。
 アッチ沢導水口に向かう鉄梯子

 ダムに向かう導水管
夏場は、手入れはされているようだ
アッチ沢取入れ口
ヒューム管の導水路は、途中から鉄管になり林道へ降りる
 落石防止用のフェンスに中を通る(MASAHIKOさんは気が付いた)
 
 
昔は、アッチ沢導水路の水は、導水トンネルの水量が2m3/s以下の場合はアッチ沢からの取水を行ったそうであるが、それ以外は、ダム湖の放出していた。左の写真にはダム湖に放出されている状態が示されている。現在この管は、詰り、朽ち果て機能していない。
 

水圧鉄管


使用水量 最大23/s 常時0.743/s 常時尖頭 23/s 
有効落差 最大258.20m 常時261.70m 常時尖頭 258.20m
内径10.9m 管厚615mm下部に行くほど厚くなる。   
長さ405.469m
 
現在の水圧鉄管(色々装備されている)
 
 昭和45年当時の水圧鉄管(シンプル)
 途中には玄倉の前尊仏岩がある。
建設当時の破壊された前尊仏岩(細い木が生えていが現在は、大きく育っている)

水車


形式 竪軸単輪単流渦巻型フランシス水車           
容量4,500W 使用水量最大2m3/s 
回転数 1,000rpm   水車中心標高322.5

発電機


種類 三相交流同期発電機 回転界磁閉鎖風洞換気型   
容量5,000kVA 電圧6.6kV 力率85
周波数50Hz    
回転数1,000rpm 


 外側の固定子に巻き線コイルがあり三相一次側に繋がっている。内側の回転子部分が電磁石になっており回転することにより、フレミングの法則により発電する。回転子には羽がついており空冷で発電機全体を冷却している。中心の回転子には通常直流を流し励磁電圧を変更することで出力電圧を変更することができる。

 同期発電機の始動には直流励磁電圧を回転子に印加しなければならず、66kVの系統送電線から所内変圧器を経て直流励磁用の電圧を得るか、バッテリー等の電源を使用するかで励磁電圧を得る方法が違う。
 資料には蓄電池室の記載があるのでバッテリーから励磁電圧を得ている可能性がある。発電機の頭頂部には起動後の励磁を維持する交流励磁機があるようなので、まずはバッテリーで回転子を励磁し回転し出したら、交流励磁機からの交流を直流に変換して励磁を行い運転を維持するのだろう。 
 励磁方式には、交流励磁機を使用する、ブラシレス励磁方式と静止形励磁方式があるが、頭頂部に交流励磁機があるようなのでブラシレス励磁方式を取っている可能性が高い(要確認)

 同期発電機には、必ず励磁装置が必要である。負荷の変動回転速度の変化などで発電電圧が変化するのを励磁装置で調節している。系統の送電線に発電機を繋ぐことを並列すると言うが、系統の位相とあった状態で繋げるため、同期検定装置も必要になってくる。最初にバッテリーからの直流電力で励磁を行うことができるので、系統が停電していても原則単独運転ができる。
 また発電機母線の引き出し口はわかるが建物内部でどのような結線になっているかは不明。母線には断路器、VT(電圧計)とCT(電流計)AVR(自動電圧調整装置)等が接続されているはずである。
 

発電所の変電設備は簡単な構造である。(右より)

主変圧器(6.6kVから66kVへの昇圧・結線はΔ – Y結線)


 2次側高圧ブッシングが66V側(タップ切替69kV、66kV、63kV工場設定)に4本でているが3本は3相交流の出力端。1本はコイルの中性点に繋がる保護回路と見た。発電機からの母線は、太い金属の棒のような線で変圧器に繋がる。6.6V側には電圧は低いが発電機からの大電流が流れている。変圧器容量5,000KVA 一次側電圧6.6Vとすると鉄損、力率を考慮しないで計算すると約760Aの電流が一次側に流れる。結線 一次側-三角形、2次側-星形 (今で言うΔ – Y結線)

 この主変圧器。実に56年間も現役であるのでそろそろ設備更新に時期にあたる。更新することで昇圧効率も高まり、鉄損も少なくなるであろう。


現在の主変圧器
44年前の主変圧器(現在の変圧器と同じ・塗装だけが違っている)

6.6kVの発電機からの母線が主変圧器の一次側に繋がる
(3本の金属の棒状の配線・大電流が流れる) 

真空遮断器

                              


昇圧された電気は、真空遮断器に繋がる。これは、いわばスイッチの役割をしている(ブレーカーも兼ねるであろう)。オレンジ色のヘッドのついた碍子形機器は、電圧測定用の計器用変成器である

同時に送電線の交流の位相を検知していて、発電機の位相と送電線の位相が合った瞬間に遮断器を投入して発電機を系統に並列させる役割を持つ
 
昔は碍子型油入遮断器であった。(中央太い碍管)
 

碍子型計測用変成器 

 
高圧側(オレンジ色)のブッシングに直接繋がっており、電圧(VT or PT)を測定している。

断路器                                 

 
発電所が点検の際に発電機を停止し、真空遮断機を開放して電流が流れていない状態のときに送電線と屋外変電設備を切り離す役割をする。電流が流れている時に開閉するとアーク放電が起こり断路器を損傷する恐れがあるので、あくまで電流が流れていない時の設備の切り離しに使用する。
 

通常その他に避雷器が接続されるが、玄倉第一発電所には避雷器の設置はされていない。(避雷器:雷が送電線に落ちた時に一時的に導通して雷の電気をアースに落とす)

 以前の写真44年前を見ると避雷器とブロッキングコイルがあった。

一番左が避雷器でその次が断路器T字に分岐して片方は送電線。もう片方は断路器に繋がり電圧測定用の碍子形変成器に繋がる。
ブロッキングコイルと結合コンデンサーが入ったケーブルヘッド
ブロッキングコイルとは、電力線を使用した通信手段に使用するもので送電線に直列に入れる。よく見ると送電線の片方が地上のケーブルヘッドに繋がっている。このケーブルヘッドに送電線からの搬送波(制御用信号)が流れる。このケーブルヘッドは50Hzの交流は流さないが、数百kHzの搬送波は通す高周波のフィルタ(結合コンデンサー)の役目をしており66Vの電圧が掛かるためブッシング(碍子)が大きい。つまりLANのPLCの様な物で、以前は変電所間や発電所間の通信手段(制御を含む)に使われていたが、現在では光ケーブルが取って代わっている。

 追記2月6日玄倉第一発電所 出力増強計画 電気事業資料5参照 pdf注意リンク切れ
 神奈川県では、玄倉第一発電所の出力増強計画を検討している。調査予算として約700万が計上されている。 過去にこの発電機に繋がれているフランシス水車の浸食が著しく、キャビテイションによるものと、切削加工を受けたような状態で摩耗している部分があることが判り、神奈川工試に調査検討を依頼したそうだ。その結果上流に流れ込む、その当時の名前で言うと石英閃緑岩の微細な泥によるものとの結論であった。(出典:神奈川工試19号1967pp3-9 玄倉川における発電用水の調査研究)
監査孔に溜まった泥は、ちょうど砥石を研いだ時のような微細な泥であった。監査孔の状態をみると、数十年近く開けられた形跡はないように思える。導水トンネルの内部点検は水を抜けばできるが、監査孔に溜まった泥は、運び出して無いようだ。

参考資料

玄倉発電事業の概要 昭和33年 5月 神奈川県


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