丹沢の水力発電所を探る 3 玄倉第二発電所

 玄倉第二発電所

使用水量 最大23/s 常時0.553/s 常時尖頭 23/s 
有効落差 最大175.55m 常時177.60m 常時尖頭 175.55m
出力  最大2,900kW 常時400kW 常時尖頭 2,900kW


 

 さて13日は、冬の休日ダイヤでバスが運行するものと思っていたら始発は、なんと825分であった。いつも食べる箱根そばもお休み。しょうがなくOdakyuストアーでカップヌードルを買いお湯を入れて、奮発してタクシーで玄倉へ入った。(参考のために料金6470円)
 コースは玄倉から第一発電所、第二発電所を経由してユーシン奥の水力施設を探訪、その後熊木ダム探訪してユーシンに戻り大石山に登り、途中から東沢乗越を経由して、ドウカク尾根を経由。タギリを越えて小川谷山荘跡に下りると言うかなりハードな計画であった。玄倉ダムまで順調に飛ばし、第二発電所を見ると変電施設が撤去されている!



 発電所脇の幻の滝には水流が見える。発電所の入口には、発電機の点検と屋外変電設備の更新と書いてあった。
酒系第302号 玄倉2(発)水車発電機内部点検手入工事(その1)
870万円
酒系第305号 玄倉2(発)水車発電機内部点検手入工事(その2)
1億5千5百40万円

酒系第316号 玄倉2(発)屋外変電設備更新工事 1億5千100万円

 そして発電所の排水口には土嚢が積まれていた。ユーシンロッジに向かい奥の水力施設を探訪。水路橋には水は流れていない。
 これはひよっとして!!と考え急いで熊木ダムに向かいトンネルを出るとなんとゲートが開いており貯水していない。いつもは近づくことができない熊木ダムが、手に取るように構造が判る。ということで林道から沢伝いに玄倉川本流に下降し、熊木ダムを堪能。

 以前から調査したかった鉄砲沢導水路と第一導水路の出口を確認。ダム下流右岸にはダム上に繋がる巡視路があり、これを経由すればダム施設に立ち入らずに探訪できる。熊木ダムの取水口には上部に監視カメラがついており、立ち入ると警告される恐れがある。ここで時間を喰いドウカク尾根末端まで行くことをあきらめ、大石山、東沢乗越、向山ノ頭経由、第二発電所上部水槽に降りることに決めた。(s-okさん Web 向山ノ頭 参照 2004年7月)
向山ノ頭-裸山丸-東沢乗越

 熊木ダムからの取水は完全に出来ない状態であり、ユーシンの水力施設にも若干の水流はあるがチョロチョロ。と言うことは、第二発電所上部の水槽も空であることは明白であった。向山ノ頭からは順調に第二発電所上部の水槽に辿り着き、上部施設を堪能。余剰水の排出口も確認できた。幻の滝の放出口である放出口のゲートはフルオープン。水流があり、滝が出現している。水圧鉄管の脇の階段を下り、途中から発電施設の巡視路に入り、発電所のフェンス間際まで下山。発電所の送電鉄塔を良く見ると66Vの送電線に被覆ケーブルがつながっている。
 66kV送電線に被覆ケーブルが繋がる

見慣れているいる66kVの被覆ケーブルとしては太さが細い。

                        ケ―ブル接続部

フェンス越しにケーブルをたどると、発電所内の6.6V配電線に開閉器で繋がっていた。

 なんと66V送電線を利用して6.6kvを受電している。これはめったに見られない光景である。発電所のフェンス越しに出口方面に向かうが、棘のついた木々が生えており、通過に難儀した。
発電所入口には、火薬が保管されている火工所があり内部を伺うと空であった。
黄色のテントが火工所

 途中第一発電所の水路にアッチ沢から導水する導水路を探訪。誠に実りの多い一日であった。玄倉にたどりついたが日が落ちて真っ暗である。帰りのバスは貸し切り状態であった。

 玄倉第一、第二発電所が出来る前は、ユーシンには農林省管轄丹沢治山水力発電所の28Wの発電所があったそうだ。
 
 現在、玄倉第一、第二発電所で発電された電力は、発電機からの出力6.6Vを変圧器で昇圧し66Vで送電線に送出している。そしてそれは、東京電力の落合線の送電網と繋がっている。実は第二発電所にはもう一つの役割がある。それは、林道途中にある地殻活動観測施設、ユーシンロッジ、付近住宅への配電と玄倉第二発電所所内設備及び玄倉ダムと熊木ダムまでの配電である。(前項の発電所内の配線線の架柱には、玄倉ダム配電線、熊木ダム配電線の表示が見える)
 
 ダムが放水する場合はサイレンが鳴動する仕組みであるが、玄倉から第一発電所を経てゲート前駐車場までは、東京電力の電線を使い6.6Vの配電線でサイレン用と放送用の電力を途中にある柱状トランスで降圧しサイレン用電力、放送用電力を供給している。
 
信号としての放送線とサイレン線は、第一発電所から各サイレンとメガホンに接続されている。

駐車場から奥の林道沿いには、電話ケーブルが架空と一部地中(第二発電所付近等)で配線されている。途中 地殻活動観施設と玄倉第二発電所に分岐しており、最終的にはユーシンロッジまで繋がっている。電話施設からの搬送距離が長いため(約10Km)、ゲート前の駐車場にある電柱には、装荷コイルもしくは増幅器様の装置が電話線に繋がっている。電話線には、通常直流-48V12Vバッテリー4個分直列)の電圧が加かっており、それを利用した増幅機かもしれない(外装がアルミダイキャスト製あり放熱も兼ねているように見える。)
東電6.6kV最終電柱(ゲート前 駐車場)
電話線に繋がる増幅器もしくは装荷コイル
ゲート前駐車場のサイレン6-1(東電から配電3相200V)とメガホン
  
 ゲート前駐車場から境隧道までは、電話ケーブルしか架線していない。境隧道手前付近以降のサイレンは、玄倉第二発電所の所内変圧器から送られてきた6.6Vを玄倉ダムにあるキュービクル内で降圧し使用している。
玄倉ダムにあるキュービクル
 境隧道手前のサイレン5-2号3相370Vと、この次にある5-1号サイレンは3相380V。なぜ中途半端な370Vとか380Vとかは、キュービクルからの距離が5-2号サイレンのほうが遠くにあり、送電端では400Vで送電していても、ケーブルが長いため受電端では、電圧降下で370Vとか380Vとかになってしまうためであろう。
石崩隧道手前の4-1号は3相200Vで駆動。
 これらサイレンには、CVT66㎡のケーブルが使われておりキュービクルからの電力で直接サイレンは動作するようだ。アレスタ―や開閉器が3つ付いているので3相駆動のサイレンでる。
 林道沿いのサイレンは、熊木ダムから順に1から始まり玄倉入口の7で終わる。
 
また同様に熊木ダムまでは、第二発電所で発電された電気を所内変圧器で降圧して供給している。
 
境隧道付近から第二発電所をへて熊木ダムまでの配電線は、神奈川県企業庁電気局が立てた電柱を使用している。電柱には神奈川県のマークがついている。
神奈川県企業庁の電柱 左はNTT電柱
神奈川県企業庁の電柱(電柱マニア レアもの)
 
新靑崩隧道(2号隧道)に入るサイレン線
酒系第314号 玄倉ダムサイレン線ケーブル移設工事
旧玄倉林道2号隧道内に布設されている玄倉ダムサイレン線を、新しい2号隧道に移設する。
サイレンケーブル (CVT60 ㎜ 2)移設他 1式.工事費358万

玄倉第一、第二発電所とも現在は、無人運転を行っているが過去の資料によると、第一発電所には人員が配置されており、第二発電所は遠隔操作の無人運転であったようだ。現在は、第一、第二発電所とも無人であり、三保ダムにある酒匂川水系ダム管理事務所(三保ダム)から制御信号が光ケーブルで第一発電所に一旦入る。

建屋内で制御装置につながり、そこから別の太いケーブルで第一発電所の水圧鉄管沿いに上部水槽に入る。
水圧鉄管沿いのケーブル類(右側)

玄倉第一発電所から制御ケーブルは、玄倉ダム取水口から出て山を越え、直接第二発電所に繋がる。

 第二発電所から熊木ダムまでは、同様に水圧鉄管沿いに敷設された太い複合ケーブル(光ケーブルを含む)で上部水槽まで敷設され導水トンネルを経由し、途中ユーシンの水路橋で一旦外部にでて建屋に入り、また連絡水槽を経て熊木ダムまで導水トンネル内を通じて繋がっている。これは、靑崩隧道付近の林道損傷が多く発生し、制御ケーブルが架線された電柱が押し流される事態が想定されているためと思われる。安全を考えれば導水トンネル内を経由しているのは当然である。

 ユーシンロッジには、山奥にしては珍しく公衆電話が設置されているが、この電話ケーブルは林道沿いに架線されているため、電柱の倒壊などで、しばし不通になることもある。昔は、靑崩隧道の玄倉寄りには、明り取りの穴が開いていたが、そこで電話線がむき出しになって接続されていた記憶がある。

 第二発電所が運転停止の場合は、送電線からの66V系統電力を所内変圧器で降圧して6.6V供給していた。そのため玄倉第二発電所の構内配線は第一発電所よりは、複雑な回路を形成していたようである。(ここで過去形なのは現在第二発電所は、発電機の水車の点検及び屋外変電設備の更新を行っており、発電は行っていない為設備の詳細が判らない)

 第二発電所で発電された電力を使用して玄倉ダムや熊木ダムなどの制御を行っていると書いているが、現在は所内変圧器も撤去されており、66Vの送電線からの受電は不可能な状況であった。それでは境隧道付近のサイレンや玄倉ダム以降の発電施設(ゲートやサイレン)は使用不能となってしまう。そこで現在は66Vの送電線を使用し6.6Vの受電を行っている。


 先に述べたように玄倉第一発電所では現在でも66Vの発電を行っており、途中玄倉第二発電所からの送電線を接続して落合線として落合発電所方面に向い、落合発電所からの送電線とつながり田ノ入発電所からの送電線を合わせて、西丹沢入口の峰発電所まで送電されている。ということは、接続点である玄倉集落内の送電鉄塔で第一、第二発電所の送電線が繋がっているので、その部分で第二発電所の送電線を切り離し、6.6Vの東京電力の配電線に繋がっていることが推測された。

玄倉集落奥の玄倉線 4番鉄塔

 玄倉第一発電所からくる送電線は、玄倉線の名称が付いており、玄倉集落の実相寺付近で玄倉第二発電所からくる落合線と繋がっている。


落合線21番鉄塔で第一、第二発電所の送電線は繋がる。

 この落合線の鉄塔は、古くは、現在丹沢湖の湖底に沈んだ東京電力落合発電所からの送電線を利用しているようだ、そのため鉄塔の名称が落合線となっている。
丹沢湖が出来る前の古い5万図をみると、谷間にあった落合発電所からの送電線が、林道沿いに玄倉まで伸び、玄倉で第一発電所とつながり、その奥で第二発電所とつながり、秦野峠を越えて秦野盆地を経由している.

 s-okさんのWebぺ―ジにある春さんの送電線物語から引用すると、「送電鉄塔の番号は、基本的には電源系統の上部から下部に向かって付けられます。簡単に言うと、電気が流れる方向(電気を運ぶ方向)に沿って付けられます」ということは、落合発電所が1番で発電所から遠くなるにつれて、番号が増えるのだが、古い落合線の線を利用しているため玄倉方面の送電鉄塔は番号が植える方向であり、第二発電所にある鉄塔の番号は、途中付け替えが行われ最終端は42番鉄塔である。

 現在は、玄倉第二発電所の鉄塔が42番で落合発電所の鉄塔が1番となっており逆の接続で、落合発電所からは、田ノ入発電所からの送電線に繋がり、峰発電所脇の変電設備に繋がっている。秦野峠付近には鉄塔の遺構が残っている可能性がある。さて6.6kVの送電端であるが、実際に確かめてみると玄倉集落の末端で落合線送電鉄塔23番と東京電力の6.6V配電線が繋がっていた。


66kV送電線と繋がる東電6.6kV配電線 
落合線23番鉄塔 行先は、玄倉第二発電所



落合線の22番鉄塔では送電線が切断されており、ここが66kV6.6Vの分界点である。

玄倉第二発電所



工事着手          昭和33年12月
                          
工事竣工予定        昭和35年1月      
工事着手から約2年で終了予定
また工事の最中に坑内作業(深夜)の爆破作業時による事故で2名の殉職者が出ている。
     
総工費概算 不明 
3億9千9百万(出典:足柄の文化Vol.1 pp37-39 西丹沢の渓谷)
 

 玄倉第二発電所の直上には、ダムから送られてきた導水トンネルの出口があり、水槽が備えられている。水槽の標高は767m。水槽出口は、水圧鉄管が繋がっておりゲートで、発電機の水車に流入する、水量を調節している。水車中心の標高は約602mである。第二発電所の運転停止時や、運転調節時、急激な発電機の制御のため、水槽の脇にゲートがあり、それを開閉することでも水量を調節している。玄倉第二発電所脇に時々出現する滝は、この水槽からの余剰水が流れる水路の役割をしている。また同時に熊木ダム(取水口標高768m)の取水堰でも調節しているが、ここで調節するとタイムラグが発生し、こまめな調節が出来ないので大まかな調整だろう。熊木ダムはフルオープン式のゲート型ダムであり時々フルオープンにしてダム湖に溜まった岩石を下流に放出している。

 

ダム諸元


構造 形式溢流重力式間知石積 基礎地盤 花崗岩     
提高14.9m 提長 34.50m                       
水門門扉 高さ6.3m 幅10m 1門  高さ2.5m 幅2m 2門
後者の2門は上部は、流芥用または小水量の放出。下部は、土砂吐用                
取水口構造  幅5m 長さ9.1m 
制水門 不明(記載なし)
有効水深4m        
湛水面積15,900㎡ 総貯水量 68,000m3
 
 
全開のダム水門
ローラーゲート方式の可動部

巨大な取水口 取入れの敷高は、ダムの固定部天端から高くして、
土砂の流入を防止するとともにスクリーンで塵芥の流入を防ぐ。上部には監視カメラがある。
 

下流から見た熊木ダム

 熊木ダムからユーシン取水連絡槽までの水路は圧力式の水路であり、圧力式なので導水トンネル上部に空間が無い。このダムには、流入する水の量を増やすために2本の導水管路が設けられていた。
資料11 熊木ダム操作規定(第5章第2関係)

鉄砲沢導水管路


 取水は鉄砲沢。現場確認をしようとしたが、沢筋が氷結しており断念。詳細はMASAHIKOさんの謎の水路の検証2を参照

 


この沢の奥に取水口があるのだが氷結しており、無理をしなかった。円筒形の筒があるがこれには理由がある。


三保ダムを建設する際に、玄倉川に注ぎ込む大きな沢には、量水計が設置され、流入水量を測定していた。その時の量水計が筒の中にある。


断念した堰堤の右岸には、導水管路がある。


導水管路の水路橋


ダムに繋がる導水管路


鉄砲沢導水管路の出口(下流向かって左)
 

一号導水管路

取水口
 
取水口に繋がる管路

ダムまで伸びる1号導水管路
 

1号導水路の出口(下流に向かって右)


水路構成



水路は、ほとんど水平。途中ユーシン沢の調整槽で落差をつけて無圧トンネルとなる。
熊木ダムからユーシン沢調整槽まで
 

ユーシン沢調整槽から同角取り入れ口まで

 
同角取り入れ口から発電機まで

 取水口(標高768m)から取り入れた発電用水は制水門を経て圧力トンネルに流入しユーシン沢連絡水槽に繋がる。途中ユーシン沢の取水口から51mのコンクリート管で連絡水槽に流入。その後水路橋を通り無圧トンネルで同角沢の取水口からの水を合わせ上部水槽に導く。同角沢からの取水は発電時のみ使用し、その他は水槽より溢流させている。

取水量 
玄倉川 最大23/s 常時0.553/s 常時尖頭 23/s 
 内 ユーシン沢 最大0.4m3/s 常時0.14m3/
 内   同角沢    最大0.1m3/s 常時0.03m3/

ユーシン沢取水口


この橋の下が水路になっている。
 

取水口から見たユーシン取水水路
 

ユーシン取水口は、土砂で埋まっている
 
導水トンネル 延長3034.971.422
内 取水口から連絡水槽までは圧力トンネルで延長1060.816m
水路橋から水槽までは無圧トンネルで延長1974.155m
形状 側壁垂直拱型 トンネル                
断面 幅1.6m高さ1.6mの馬蹄形型
 

熊木ダムの取水口の標高は768m、連絡水槽は767mであり設計上の勾配は1/1,500である。ほとんど水平状態である。連絡水槽の出口の標高は約770mで3m分の圧力がかかっている。

 ユーシン沢水路橋の入口から325m地点から550m地点の間で大規模な湧水にぶつかり、約2か月工事が中断したそうだ。その後トンネル底部を掘り下げ水抜き穴を湧水を処理することで掘り進むことができた。この湧水は工事後トンネル内に戻し水量の増加を図った。そのため水路橋には、水が流れてないが、トンネル出口では水流が認められる。

 

ユーシン沢取水連絡水槽

現在は、水門工事中
 酒系第306号 玄倉2(発)連絡水槽制水ゲート修理工事 760万円
玄倉第2発電所連絡水槽制水ゲートの修理工事..・扉体修理(取替部材)ローラ、水密ゴム(上部・側部・下部)戸当り金物、スピンドル振止・開閉装置分解点検塗装 一式・試験調整 一式

連絡水槽上部
 
 連絡水槽は内径4m 高さ11mの円筒形で幅1.6m高さ1.6mの調節水門で取水口から圧力トンネルで連絡水槽に導入された水の圧力の落差(圧力トンネル出口が水路橋入口より上部にある)を殺し、取水量の調節を行う。またユーシン沢からの取水をこの水槽に導き、発電時にはその水を利用し、発電してない時は、トンネルを逆流させて調整池に流入させてる。水槽底部には、幅0.6m高さ0.6mの土砂吐水門を設け延長17.4mのコンクリート管で土砂の排砂を行う。

土砂吐水門からの排水中


連絡水槽と水路橋の位置関係

水路橋


 水路橋は、連絡水槽と下流トンネル(無圧)の間に内径1.6m 長さ33.94m、底部馬蹄形型のプレスコンクリート桁橋で設けられ、途中に溢流設備を設け無圧トンネルに圧力がかかるのを防止している。

 
黒い部分が溢流設備(単なる切り口)
 
溢流設備(単なる切り口)



水路橋の銘板 幽神沢となっている 

 この水路橋とは別にユーシン沢からの導水管が、明薬の小屋の裏手まで伸びている。これがユーシンのあった水力発電所用の水路なのかは、わからない。発電所の竣工当時の写真にも同様な導水管がある。

 
 
明薬小屋の裏手にある水槽(現在はユーシンロッジの取水口として使用されている)
  

 

連絡水槽がある敷地内に、特徴的なコンクリートの土台が残っている。


 

世附の大棚沢にはぺルトン水車発電機を使用した発電所があった。このぺルトン水車の土台と、連絡水槽の敷地にあった土台の形状が似ている。ここに発電所があったのか?ユーシン沢から取り入れると考えると落差が小さい。

見落としていたことがある。発電所竣工当時の水路橋の奥には、現在ある堰堤が見当たらない。ということは、もっと上流から取水していたことになる。と考えると落差は十分あり、ぺルトン水車がこの土台にあってもおかしくない。この土台がユーシンにあった丹沢治山発電所の跡であろう。(小水力発電には、ぺルトン水車が良く使われている)
 
明薬小屋の裏手の水槽のほうが落差があり、にバルブもあるので怪しいが、下部にコンクリートの土台が見当たらない。こちらは、ユーシン休泊所の水道施設であろう。現在もユーシンロッジに送水している。ユーシン休泊所は、かなり大規模な集落であり、電灯と動力としての発電所が設置されていた。
ユーシン休泊所(出典:足柄之文化Vol28、pp75-78 西丹沢拾い話 小木 満)
 
友信休泊所(出典:ハイキング昭和10年9月丹沢特集pp42 玄倉渓谷 坂本光雄)
 
大棚沢のぺルトン水車と発電機土台



同角沢取水口

 
 
  F1上部まで上ったが、沢が氷結しており断念した。

上部水槽

 
水槽は、長さ28.7m幅5.6m 平均深さ3m 有効容量300m3
鉄管路入口には塵芥除去用のスクリーン並びに幅1.6m高さ1.9mの水門を備える。
余水は、水槽内に設置された溢流設備により余水路に導く。水槽はその一方に向かって傾け0.5m角のスルースゲート1本、スピンドル式手動排砂門を設けて排砂を行っている。
無圧トンネル出口 左側に溢流設備がある(余水路に繋がる)
水路橋には水は流れていなかったが無圧トンネル途中の湧水地帯からの水を取り入れているので水流がある。
トンネルの中に架線されている制御ケーブル
水圧鉄管入口ゲート右に手動スピンドル式ゲートが見える
排砂口が開いており余水路に水が流れている
余水路
余水路から水が迸る その先は!
 
 
幻の滝の出現でした

水圧鉄管路

 
内径1.1~0.9m 延長254.87m 上部1.1m 肉厚6mm 下部0.9m 肉厚14mm
上部水槽と河川水面の落差175.55m
 
 
水圧鉄管は途中で曲がっており上部は見えない


建設当時は、禿山

水車


形式 竪軸単輪単流渦巻型フランシス水車           
容量3,100kW 使用水量最大2m3/s 
回転数 1,000rpm(ホームページでは1,010rpm)  

発電機


種類 三相交流誘導発電機 立軸籠型回転子 閉鎖風洞換気型
容量3,000kW(現在は2,900kW)
電圧6.6kV 

第二発電所は、三相交流誘導発電機であり、第一発電所(同期発電機)とは動作が違う
第一発電所の発電機と違い、発電機の頭頂部がシンプルである。(交流励磁機が無い)

周波数50Hz 回転数 当初の設計では1,000rpm(現在は1,010rpmと微妙に違う) 

 外側の固定子に巻き線コイルがあり三相一次側に繋がっている。内側の回転子部分が籠型のコイルになっており回転することにより、フレミングの法則により発電する。回転子には羽がついており空冷で発電機全体を冷却している。
 中心の籠形回転子は、誘導発電機の場合励磁電流は流さない。通常の籠型モーターと同じ構造である。まず最初に66kVの系統送電線から所内変圧器を経て固定子に電流を流す。籠型回転子を回転させると磁界に対して回転が発生することで固定子に電気が発生する。この発生した電気を系統の送電線に強制並列させると発電が始まる。
 この系統に発電機を並列に投入する際、回転速度を系統の周波数に出来るだけ近づけて投入(発電機を繋げること)する必要がある。その際に投入電流が定格電流を越えて発電機側に流れるので、リアクトル(コイル)、コンデンサー等が変電設備に必要とされている。(第一発電所より第二発電所の方が屋外の変電設備が複雑であったのは、このためかもしれない。今となっては撤去されているので判らない)
 当初の回転数1,000rpmから現在の1,010rpmになっている理由は、設備の経年変化で1,010rpm運転しないと50Hzにならないためかもしれない。発電機が系統に投入されると、あとは系統の電圧・周波数に支配される。これが誘導発電機の誘導の謂れである。そのため送電系統からの励磁電流を得なければならないので、単独運転はできない。

追記 2月6日 
 発電機を制作した会社は、明電舎であり、工場の立会試験では1,006回転で50Hz6.6kVの性能であったそうだ。誘導発電機は、多少の欠点があるものの、構造が簡単(籠型)。頑丈で安価。自動制御回路が簡単(同期投入装置がいらない)であり、無人発電所として有望であるとのこと。1959年当時 日本での最大の3,870kW誘導発電機が明電舎で作られ新潟県胎内第二発電所に納品され、この玄倉第二発電所に納入された3,000kWは、二番目にあたるそうである。(出典:明電ニュース 1959 No.10 pp1)
 
 神奈川県のホームページをみると変圧器が3台設置されていたようである。変圧器の大きさは、トンネルを潜るため制約があり、ブッシングを外して送出されたのであろう。新しい設備の概要は判らないが土台の構造から推定すると、GIS化されたコンパクトな設備になると推定される。GIS化とは空気より絶縁破壊電圧が高い六フッ化硫黄ガス(SF6)を機器内に満たし、絶縁をコンパクトにできる施設である。つまり第一発電所のような配線が張り巡らされて碍子が羅列されるような構造ではなく金属製のタンクとパイプをつなぎ合わせて変電設備を作る方式である。SF6ガスは地球温暖化に繋がるので、最新式の固体絶縁方式のキュービクルタイプの昇圧施設になる可能性もある。
 
 門型鉄塔の後ろには、機器を備え付ける土台が出来上がってる。
かなりコンパクト(発電所より高圧母線が敷設されるトラフが繋がっている)

 GIS化された三相一括母線型変電設備の例(キュービクルタイプ)

 
門型鉄塔の前には円形の深い穴が穿たれている
この穴を掘るために火薬が使われたようだ。

 

穴に入れられる配筋された円筒形の鉄筋が見える


 

 穴の深さは、埋められる丸型の鉄筋の長さから推測すると10mくらいはあるだろうか?はたして地盤をそこまで掘り下げて、何を上部に構築するかを考えると、そこには環境調和型の円筒形の送電鉄塔が立つことが考えられる。国定公園内に無粋な鉄塔を建直すとは考えられない。
 

 発電所内部にはカバーが外された発電機が伺える
 追記 2月6日
 神奈川県酒匂川水系ダム管理事務所では、現在 点検のため導水トンネルの水を抜いている。この導水トンネルは、発電を始めてから50年以上経つが、今まで目視点検のみであったそうだ。
そこで1,200万円を掛けて県は、、探査機械などを用いた詳細な調査を行うそうだ。今回の調査では、空洞や亀裂、鉄筋の状況などを探査機械を用いて細かく調査する。また、測量、ボーリングなどを実施。問題箇所を改修する場合の工法の検討なども行うそうだ。
神奈川県企業庁酒匂川水系ダム管理事務所 玄倉第二発電所導水路点検
引用 地方建設専門誌の会 (但し記事中の馬蹄形(ばていけい)トンネルで、高さ1・6㌔×幅1・6㌔はmの間違い)
 探査機械をトンネル内に運び入れるのは、ユーシンの水路橋の場所であろう。あそこなら林道から近くクローラー運搬機で、連絡水槽までなら何とか入れる。そして上部水槽にも、熊木ダムにも自由に入れる。発電所からだと高低差がありすぎ、運び入れるのは難しい。熊木ダムからは、沢を下りなければならず、これまた難しい。導水トンネルの補修を行うとすれば、内面にカーボンファイバーかガラス繊維、もしくはポリアミド樹脂の膜を貼り付け、UV照射で固まる樹脂を塗り硬化させる工法が手っ取り早く完成できる。(下水道工事でよく使う工法)
 

 

参考資料

 玄倉第二発電所竣工概要 神奈川県企業庁
 
 西丹沢発電事業の概要 神奈川県企業庁
 

 










コメント

このブログの人気の投稿

丹沢の鉱山跡を探る 14  丹沢だより438号 2007/3 (三保鉱山)

丹沢の鉱山跡を探る 丹沢鉱山(丹沢 東沢 鉱山跡) 再訪

丹沢の鉱山跡を探る 13  丹沢だより438号 2007/2(稲郷鉱山・高松鉱山)