玄倉の前尊仏様を探る その一 丹沢だより419号 2005/5


                                  
 

 みなさんは、この岩の形どこかの本で見たことありませんか?奥野幸道氏著「丹沢今昔」
に出てくる塔ノ岳の失われた尊仏様(松井幹雄氏撮影秦野山岳会発行絵葉書)にそっくりだと思いませんか?
最近 丹沢の昔を知りたくて色々調べていました。丹沢5人男の一人である坂本光雄氏が書かれた 山と渓谷28号「丹澤玄倉川と周辺の山々」を読んでいると玄倉に前尊仏様があるとの一文がありました。新編相模国風土記稿の塔ノ嶽を示して以下引用「黒尊佛とあるは玄倉村にては、玄倉の野の西端に有る、前尊佛(大石アリ)より指して、玄尊佛(倶盧尊佛)と稱してゐる、此の大石の上に座像の佛體が安置せられてあったのが、大正の震害で、大金澤へ轉落したのは諸兄の周知の事と思う玄倉で毎年7月17日に祭禮が催れる(秦野方面では5月15日に行なわれる)此の祭禮は、玄倉村の八幡様にて、湯花祭という行事が行なわれる・・・」とのこと。

 塔ノ岳の尊仏様は有名ですが、塔ノ岳まで行くまでもなく玄倉の地元の人々が手軽にお参りにいけるような前尊仏様があったとのこと、大震災にも打ち勝ち玄倉のどこかで静かに眠っている前尊仏を探そうと思つきました。昭和初期のほかの資料も探しましたが紹介されているものは、皆無で手がかりはありませんでした。雑誌「ハイキング」の丹沢特集1~8、「山小屋」、「山と高原」の丹沢関連記事、それから丹沢専門誌として一時登場した「雲と山と」を読み漁りましたが、玄倉の前尊仏様に関しての情報はありませんでした。

 かろうじて見つけたのは、同じく坂本光雄氏が書かれた山と渓谷40号「丹澤・塔岳雑談」でした。以下引用「さて御利生あらたかな拘留孫佛を勧請した塔ノ岳の孫佛岩に對して山麓各村に於ては前孫佛と崇めてそれぞれ神體を祀って里宮とされてをります。南麓秦野地方では三廻部村の観音院、戸川村の尊佛松、横野村の唐子明神社の三ヶ所とされ裏面玄倉方面では部落の背後に聳ゆる立間山の山腹に自然石の立岩が、恰も塔ノ岳に在った孫佛岩の様に現在でも玄倉川に面して障立して居ります。また中川の東澤にもこれと同じ態の岩があって尊佛と稱されていると昨年の正月箒澤部落を訪づれた時に聞きましたが之等は塔ノ岳の孫佛様と何か関係があったのではないかと思ひますが再考に俟ちます。」とありました。

 さてここに登場する前尊仏様として現在確認できているのは、三廻部村の観音院、横野村の唐子明神社(加羅古神社)です。観音院は、明治時代に山北岸の東光院と塔ノ岳山頂の尊仏岩の所有権を争ったことで皆さんもご存知かと思います。観音院は、前述の新編相模国風土記稿によりますと「郡中三廻村観音院にては此石を孫佛尊と呼び、寺の山號をも孫佛尊山と唱へり」とありまた大日本地名辞書によりますと「観音院の寺稱を孫佛山と稱す。此の観音院にては佛像に髣髴たる石を祭り、奥社を塔岳の孫佛となす」とあります。また唐子明神社の縁起は、「むかし、毎夜山に光るものが現れ、不思議に思った村人が登ってみると、突然空に御神燈が光り、次に奥の山上に、また奥の山上にと光輝き竜馬に乗った神童が現れ神像を渡し祀るようにと云い、村人は最初に燈った山麓に加羅古神社を建立したという。」とのことです。二ノ塔、三ノ塔の山名由来の元になった伝承で最初に光が燈ったのがこの神社で、二ノ燈、三ノ燈と燈ったとも言われております。そして新編相模風土記には、唐子明神社ついて、次のように書かれているそうです。「村の鎮守なり。神体は木像、縁起に昔唐土より飛来せし神なるを以って、唐子明神と号す。 この境内の山中に安ずる拘留尊仏は、即明神の垂蹟なる由見ゆ。その他記する所妄誕に亘れば、ここに漏らせり。天正19年11月1石の御朱印を給う」とあります。これも文中に拘留尊仏とでています。先の丹澤・塔岳雑記によりますと、この横野部落(唐子神社があった場所)より菩提山を経て入るのが東口、大倉から二本松を経て登るのが南口、遠く山北邊りの講中が玄倉から登って来るのが西口だそうです。他 札掛から大日岳、早戸川大滝から毘盧ヶ嶽(蛭ヶ嶽)、三境ノ峰(丹沢山)を尾根通し縦走して来るものが甲州口とのことでした。

 前尊仏様を探すための手がかりは、玄倉、玄倉ノ野の西、立間山の西、玄倉川に面している、村の背後に障立、立間山の山腹、八幡神社しかありません。玄倉林道周辺に尊仏岩のような立石奇岩があることは、聞いたこともありません。自然災害で失われてしまったのでしょうか・・・・ つづく



塔ノ岳の失われた尊仏様(松井幹雄氏撮影秦野山岳会発行絵葉書)

コメント

このブログの人気の投稿

丹沢の鉱山跡を探る 14  丹沢だより438号 2007/3 (三保鉱山)

丹沢の鉱山跡を探る 丹沢鉱山(丹沢 東沢 鉱山跡) 再訪

丹沢の鉱山跡を探る 13  丹沢だより438号 2007/2(稲郷鉱山・高松鉱山)